天の神様にも内緒の 笹の葉陰で


     7



彼らへ話しかけてくる女子高生の中には、
イエスの話題であれ
言い訳だったり建前だったりな子だっているんだよ?という。
ブッダには思いも拠らない考えようを突き付けられて。
それって何?と困惑し、
しまいには覚束ない視線を向けてくる彼なのへ。
込み入った話はおウチに帰ってからねと、
いつもとは逆な立場になったイエスがいなしつつ、
商店街から戻って来た二人であり。
食材を冷蔵庫へ片付けてから、
冷たい麦茶をお供に、卓袱台の回りへ落ち着いてのさて。

 「前にもちょこちょこ言って来たでしょう?
  ブッダこそ気をつけなきゃいけないよって。」

お顔だってイケメンだし、体つきだって…

 「私としては柔らかくて気持ちいいんだけど、」
 「〜〜っ。//////」

どさくさに紛れて恥ずかしいこと言わないでと、
如来様が そのまろやかな肩を竦み上がらせたのへ、ふふーと笑い、

 「触れない人からすれば、十分頼もしい体格してるんだし。」

その上、それは物知りで聡明で、
誠実で気高くて、よく気がついて優しくてと来れば、

 「女の子が眸を向けないはずないでしょう?」

そこへ加えて、螺髪が解ければ女性と見まごう麗しさだもの。

 「美人さんだと思われてるってことは、
  同性へも油断出来ないんだものね。
  なんて不公平なんだか。」

 「いやあの…。//////」

そっちはほら、アクシデントでの話なんだしと。
そんな場合までカウントしないでよと言いたいらしく、
まろやかな肩を再びすくめ、
もじもじと落ち着きをなくすブッダなの。
あらためて…愛おしくてたまらないと、うっとり眺めつつ、

 「やきもきしてるのは ブッダだけじゃあないんだよ?」

悋気深くてみっともないと、
自己嫌悪しては落ち込む、生真面目なキミなのが。
切なくも恥ずかしくなっちゃうほどに、
こっちは もちっと小狡くて。

 「今だから言えるけど、
  私なんて、
  ブッダが浄土から離れられないこと自体を
  どれほどやきもきしていたことか。」

 「………え?」

ぽかんとするお顔の端正さは、昔も今も全然変わってなくて。
吸い込まれそうな透明感に満ちていて、
それでいて…何でかな、
見栄も何もかなぐり捨てて、
そりゃあそりゃあ甘えたくなるような、
尋深い暖かみも持っていて。

  でもね、あのね?

今でこそ、こうやって
毎日一緒なんて夢のような暮らしが送れているけど、

 「キミは衆生を見守らなきゃならない身だったから、
  そのお邪魔だけは出来なかったしね。」

 「あ…。/////」

天界での“端境の庭”での逢瀬だって、
逢えれば奇遇だねなんて言って、あくまでも偶然を装ってたけど。
ホントは 物凄く無理してでもって
頑張って毎日みたいに出掛けていたほどに、

 「いつだって、逢いたくて逢いたくてしょうがなくて。」

いつもの屈託のない“愛してる”とは違って、
ずっと秘していた想いだけに、今更言うのは照れ臭いのか。
視線を落とすと、
押さえ切れない含羞みに口許をやや歪めてしまうものの、
それでも、語るのをやめるイエスではなく、

 「これってアガペーじゃないなぁって、
  気がつくのに時間なんてかからなくて。/////」

 「う…。//////」

衆生がそういう感情を持つのは構わぬが、
神の子であるイエスは普遍の愛を授ける側だ。
その総身に詰まった限りない光を惜しみ無くそそぐ存在であり、
そんな彼が、誰か一人へ固執するのはとんでもないことなのにね。
禁忌だと知っていながら、それでも見切ることを選ばずに、
誰にも気づかれないよう必死で頑張って隠しつつ、
その胸に暖め続けてた彼であり。

 “あああ、何度聞いても何かその…。/////////”

素直で嘘がつけない彼の言だから、尚のこと、
これに関する話には、本当に重みや厚みがあって。
だからこそ、こそばゆいやら面映ゆいやら。

 “そう、なんだよね。///////”

そんな彼からそうまで思われているというのにね。
ちょっとでもよそ見されれば落ち着けなくなる、
誰かと楽しげにしておれば胸が騒ぐ、
そんな自分の狭量さは、何てみっともないことか。

 「…うん、ごめんね。」

落ち込むたびに、
他でもないイエスから
こんな風に気遣われていること自体が勿体ない。
んん?と お顔を上げる愛しい人へ、

 「私、もうちょっと大人にならなきゃね。」

含羞み混じりの恥ずかしそうな笑みを浮かべて、
そんな一言を紡いだブッダへ、

 「あ、えと、あの…うん。/////////」

いやあの、何てのか、
別に反省してと言いたかったんじゃなくてーと。
あれほど頼もしい語りようをしていたお人が、
急にしどもどと覚束なくなるのが、
それもまた純粋さのせいかと思えば清々しくて。
こういうところは微笑ましいなと見つめておれば、

 「う〜〜〜、隙ありっ。」
 「え? ………わ。////」

卓袱台を挟んでの、きっちりと対面同士という格好で
座してたわけじゃあなかったお互いだったのでと。
するり身をずらして、あっと言う間に傍らへまで
その間を詰めてしまうと。
ほお杖でもつこうとしていたものか、
卓の上へ上がっていた腕の手首を捕まえ、
ぐいと引き寄せる手際のよさよ。
ついの反射で、一瞬抵抗しかかったのが、
却って腕を堅くさせ、
引かれるままに上体ごと ぐんと接近してしまい、

 「……vv」

間近になったイエスの面差しの中、
いかにも冴えた印象の、切れ長の双眸が、
その玻璃の色合いを深めて細められたものだから、

 「…う〜。////////」

そんなされると、背中や肩が落ち着かぬ。
射竦められるというのとも違う、
やさしく虜にされるよな、
そんな意地悪に捕まったような気がしてならず。
でもって、それを振り払えないのは、

 “私が、イエスを好きだから、なんだろうなぁ。///////”

たおやかに笑みを浮かべる口許の、
妖冶な深みに引き込まれて目が離せない。
頬が近づき、肌の微熱が一つに解け合う。
わざとに焦らして、まずは鼻梁の脇を触れ合わせてから、
やわらかで甘い熱もつ唇に、
やっと触れたの安堵する吐息が恥ずかしい。
くちくちと食まれることへうなじに熱が這い上がり、
あっと言う間にその背条へはさりとほどけた髪がかぶさって。

 「…………あ。」

ごめんね、恥ずかしかったの?
そんなことを今更に訊く人が、
小憎らしいくらい愛しい自分はもう、
彼がいなくては居られないのだと。
返事の代わり、腕を伸ばすと
その頼もしい背中へしがみつくしかなくて。

 「………ん、んぅ。////////」

窓の外には はっきりしない淡い灰色の空が広がり。
それが視野の中で斜めに反転し、
やっぱりどこまでも空の青は望めなくって。
それでも幸せだなぁって思ったのは、
そんな視野を覆った深色の髪とその主のお顔が、
何にも増して愛おしかったから。






だから、あのね?
まさかまさか、アパートを見やってた目があったことなんて、
全くの全然、気がつかなかった二人だったのでありました。








       お題 8 『すっぽりくるまる』



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  *前の章があんまり長くなりそうだったんで、
   分けたら今度はこちらが短くなったいい加減さです。
   何か収まらないので、
   すっ飛ばした晩の話とか、書いてもいいかな?(誰に訊いてる)

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